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さびたナイフ/河あきら

2012年09月24日
さびたナイフ


唐突ですが、懐かしいマンガが登場しましたよヽ(^。^)ノ
河あきらさんの「さびたナイフ」です。
昭和51年(1976年)の別冊マーガレット1月号に掲載されました。
ざっと時期を言うと、「太陽への道」と「故郷の歌は聞こえない」の間あたりの作品ですかね。
これもバッド・エイジシリーズのひとつ・・でしょうね。

じつは先日「震える舌」っていう、懐かしい映画を見たんです。
これは、団地に住むごく普通に幸せな家庭生活を送っていたある夫婦の一人娘が、破傷風にかかってしまった闘病記です。破傷風っていうのは、その症状がとても激しくて、幼いわが子が苦しむ姿を目の当たりにした親としての苦悩、助からないのでは・・・という恐怖、ちっとも治っていかない苛立ちや、夫婦間や医者に対する不信感やそこに生じるすれ違いなどをじっくり丹念に描いてあります。

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で、私にとって「破傷風」と言えば、この、河あきらさんの「さびたナイフ」なんですよね。
どうしても読みたくなって、オークションでゲットしました。
「震える舌」は1980年の作品ですから、「さびたナイフ」は数年先行していたわけです。
私の記憶では、もうちょっと昔の作品かな?と思いましたけど、違いました(^_^;)。

物語は、海岸で再会した二人の男女の回想です。
女は美乃。男は勇。
美乃は当時高校生。日々のつまらなさをゴーゴー喫茶でお酒を飲んでごまかしている、いわゆる不良娘です。が、どこか覚めた目をしています。
そんな美乃の前に現れたのが、家出少年の勇。当時は14歳です。勇をかくまい、自分のアパートに泊めてやったのが田代哲也。そこに居合わせた縁で美乃は彼らと関わりを持ち始めました。
さて、美乃は、父親がギリシャ人で美乃親子を残して帰郷。その後母親は死亡。だから親戚の家に預けられています。親戚ではあまり親切にされてないので、面白くなくて不良化しているようです。
その家には美乃の従兄弟の愁一がいました。彼はとても優秀でガリ勉。
そんな愁一の、とあるノートを見てしまった美乃。
そこには、綿密に練られた完全犯罪の手引きが書かれていたのです・・・。



と、「不良」とか「ゴーゴー喫茶」とか「ガリ勉」とか、時代を感じさせる言葉のオンパレードになりますが(笑)、その後、彼らはこのノートに従い銀行強盗をやってしまいます。
4人の逃避行、そして、破局。
愁一は破傷風にかかって死に、哲也は警官に発砲されて死んでしまうのです。


大人目線で読んでみると・・・うーん・・・

ともかく4人のうち、誰にも共感が持てません。
美乃はたしかに両親がいなくて気の毒な境遇です。引き取って育ててくれているおじさん夫婦にも疎まれている様子ですしね。でも、疎まれてはいるけれど、ちゃんとした部屋をあてがわれ、高校へも行かせてもらっている。当たり前のことはしてもらってるわけです。それがイヤなら何も高校に行かなくても、中学卒業で働いて自立すると言う方法もあるのです。それをしないでただグレてるだけでは、ちょっと共感はできませんよね?
哲也も勇も、「ほかの誰もやらないこと、派手なことをパーッとやって周囲の人間を驚かせたい」なんて、バカじゃないのか!!??と言いたいです。
愁一は医者になるべく一生懸命勉強していると言うのに、なぜ犯行に加わる気になったか。美乃を好きだからだと思うけど、だからと言って犯罪はいけないですよ。行動を共にするよりも止めるべきです。
極めつけは、「完全犯罪」と言う割にはあまりにお粗末な結末。甘すぎますよね?すべてにおいて。
この作品は、そんな甘すぎた少年たちの「なれのはて」みたいなことを描きたかったのかも知れませんが、どうにもこうにも彼らの気持ちに共感が出来ないのが残念でした。

で、とにもかくにも、哲也がバカすぎる!!
もう、イライラするほどです(^_^;)。
登場してから一度も良いところが無い哲也です。
銀行強盗の後の逃避行のとき、盗んだ車でスピード違反、止めようとした白バイを当て逃げ。犯行当時のバイクも友達のもので、そこから足がつくし、愁の犯行ノートは部屋に置きっ放しだし。
緊張感で一杯のはずの逃避行中も、草で足を引っ掛ける「わな」を作って遊んでいるし。
そして、極めつけは、勇に美乃を襲うようにけしかけたりもします。
彼のバカっぷりだけが目に付いて、本当にイライラします。


しかし後半、俄然、哲也の印象が良い方に転じてきます。
まず、「わな」を作って遊んでいたのは、気を紛らわせていたんだと言うのです。
ナイーブなところを見せ、まるでバカなだけでもないと思わせる場面です。
それから、勇を美乃にけしかけたのは、愁の気持ちを確かめるためだったんです。
案の定、それまでとても冷静だった愁一も、美乃のこととなると我を失ってしまう。それを見た実乃は嬉しく感じ・・・ある意味哲也の目論見は成功したのですね。



さて、哲也と勇がふざけて草で作った「わな」。わなって言っても人がそこに足を引っ掛けて転ぶように作られたたわいも無いものです。
でも、これが物語の重要なポイント。
まず、これに足をとられて転んだ愁は、手を怪我します。
それが破傷風と言う恐ろしい病気になる原因になるのです。

ビンを落として割れた音で、愁は全身痙攣を起こし、首筋のこわばりもあったため、破傷風だと気づいたようです。医者志望ですから分かるわけ。
どうしても医者に診せなければ。
しかし、医者に診せるということは、警察に見つかることを意味します。最初は躊躇した彼らも、愁の劇症にいよいよ医者を呼びに行くことに。
勇がその役目を担います。
哲也は勇に、医者を呼んだらその足で逃げろと言います。
でも不審に思った医者によって通報され、勇は結局アジトとなっている別荘を教えてしまいます。
警察に取り囲まれた別荘。
逃げようにも、愁を動かすことが出来ません。
哲也はそんな愁と、愁に付き添う美乃を、見捨てるように別荘を後にしました。
でも、それは見せかけだけ。
自分がおとりとなって警察官を引き寄せるつもりだったのです。
ところが、警官が足元へ威嚇発砲した弾が、転んだ拍子に急所に命中し、あっけなく死んでしまうのです。
なぜ転んだのか。
それは、自分が作った草のわなのせいでした。
なんとも皮肉な結末!!衝撃的です。

結局別荘の中では愁は死んでしまい、美乃も仕方が無く警官に捕まります。


時は流れて、7年後。
彼らは、この事件が時効を迎えるであろう7年後に、この場所で再会する約束をしていたのです。
冒頭の、美乃と勇の再会シーンがそれです。
そこで勇から、愁がおそらく美乃といっしょにギリシャへ行くつもりだったことを聞かされた実乃。
ふたりは7年前にみんなで埋めた血判状とナイフを掘り起こします。
血判状は当然のごとく、ぼろぼろで読めません。
ナイフはさびています。
でも、当時の彼らは、輝くナイフのように生き生きと生きていたんだと、美乃は思うのでした。




私が子どものころ、親から「破傷風はとても怖い病気で、錆びた釘などで怪我をするとそこから破傷風菌が入る」と言われていたので、記憶では、タイトルの「さびたナイフ」で怪我をして破傷風になったのかと。
読み返してみると違いますね(^_^;)。
「震える舌」の女の子も、とくに錆びたもので感染したのではないです。
女の子の場合、泥水です。
今は破傷風は赤ちゃんのときにワクチンも打ちますし、あんまり聞かない病気ですよね。
当時でも、やっぱり珍しかったとは思いますが。


それから、この「時効」と言う言葉で思い出すのは、「3億円事件」です。
このマンガの初出の1年前、3億円事件が時効を迎えて、結構な大騒ぎでした。
銀行強盗といい、おそらく、あの事件に触発されて出来た物語だと思います。
とにもかくにも昭和の匂いの濃い物語ですね。
しらけ世代なんて言われたのもこの頃だったでしょうか。

読み終えて、虚しさと懐かしさが一緒に、胸に残りました。
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[か行のマンガ家]河あきら | Comments(11) | Trackback(0)
Comment
初めまして
何故かふと、いらかの波を思い出し検索したところ、こちらに出会いました。
そして、タイトルを忘れてましたが
この、さびたナイフを思い出しました。
小学生の頃だったと思います。
切ないようなやり場のない思いになったのを覚えています。
もちろん子供目線なので、今、読むとまた
違うかも知れませんね。
懐かしかったです。機会があればまた読んでみようと思います。
有難うございました。
Re: ありがとうございます!
杏実さん、いらっしゃいませ。
お返事が遅れてごめんなさい(^_^;)

お友達のお話、すごく面白く読ませていただきました。
12歳でそのオリジナリティ!
とくに
「すげえ…内臓が見える…お、俺は本当は医者になりたかったんだ!」
などの台詞は、普通の人間には考え付かないと思います。
しかも12歳とは・・・。
さっちゃんはその後、どんな青春をすごされて、どんな大人になられたのでしょう。。。

でも、それで河あきら先生のファンが一人減ってしまったのだから
罪深いですね!(笑)

いまからでも、読んでいただけたらと思います。
オススメは「いらかの波」ですね(*^_^*)

ありがとうございます!
突然すみません。でも、本当にありがとうございます!
実はわたし、この話を全く誤解していたのです。

小6の時、わたしにはさっちゃんとゆう悪友が居りまして
ある日、彼女が
「河あきらの“さびたナイフ”ってキモチワルイんだよ」
と、あらすじを話してくれたのです。
途中までは、こちらに紹介されている通りだったのですが…

まず、主人公の従兄が、自分が破傷風を発症した事を自覚して自殺してしまう。
それを見て絶望した主人公と男友達も、自分たちの運命を悲観して、お互いナイフで刺し合って死ぬ。
遺された少年は発狂し、
「すげえ…内臓が見える…お、俺は本当は医者になりたかったんだ!」
とか言いながら、屍体から内臓を掴み出したりして、
最後には自分の頭を割って脳みそを取り出し、壁に投げつける…
隠れ家に、少年の笑い声が響いてEND((((;゚Д゚)))))))

…こうゆう話だと言ったんです!

え⁉︎…河あきらがそんな話を…?

わたしはすっかりテンションが下がり、絶対にその漫画は読むまい!と決心してしまいました。
正直、河先生に幻滅さえしたものでした。

でも、おかげさまでそれが全て誤解だったと判明しました。いや〜、すっきりしました。

そういえばさっちゃんは、楳図かずおも好きでした。きっとボンクラなわたしをからかって、後半を改ざんしたんでしょう…恐ろしい12歳です。
わたしのこの、やり場のない怒りをどうしたらいいのでしょう…
Re: 懐かしい内容の記事を書いてくださって、ありがとうございます。
カステラミルクさん、はじめまして。
ようこそお越しくださいました。コメントをありがとうございます!
リアルタイムで読んでおられたとは、しかも、私の妹と同じ年でいらっしゃいます。
丙午・・・ですよね。
カステラミルクさんのお姉さまが私と同じくらいのお年なのかな。
おたがい、漫画好きの姉妹ですね。。(*^_^*)

「わたり鳥は北へ」が一番お好きなんですね!
私も大好きな作品だから、とっても嬉しいです!
美乃がアザミと似てるとは・・言われてみればそうかもしれません。
全然気付きませんでした。
けっこうおしとやかというか、大人しい女の子が主人公のことが多いですもんね。


>「わすれな草」で別冊マーガレットの年間最優秀賞を取って、集英社にヨーロッパ旅行をさせてもらった後だったからだと思います。

そうだったんですか!!
なるほど・・・。

破傷風、そんなことが身近に起きたんですね。
私は父が口を酸っぱくして「破傷風は怖い」と言ってたので、本当に怖かったです。
実際に同じ年頃の子どもがなくなってしまうなんて、悲劇でしたね。
幼い命がなくなってしまって。。。気の毒でたまりません。
汚い川で感染したなら、映画の「震える舌」の泥んこの水溜りだったかな?池?
での感染と似ています。
清潔ってありがたいですね。
懐かしい内容の記事を書いてくださって、ありがとうございます。
はじめまして。
だいぶ前の記事ですが、コメントさせていただきます。

河あきらさん、別冊マーガレット。
懐かしいです。
リアルタイムで読みましたし、同じ単行本も姉が買って家にありました。
私が一番好きなのは「わたり鳥は北へ!」ですが、「さびたナイフ」の美乃は一番美人だと思っています。
これはおそらく、「わすれな草」で別冊マーガレットの年間最優秀賞を取って、集英社にヨーロッパ旅行をさせてもらった後だったからだと思います。
美乃はぶっきらぼうで立ち居振る舞いはかっこいいけど、性格は「わたり鳥」のアザミちゃんみたいです。

破傷風については、私は昭和41年生まれなんですが、小学校1年の時に、破傷風を患った同級生がいました。
入学前にケガをして、1学期をまるまる欠席したと思います。確か、一緒に遊んでいた子供は亡くなったはずです。
原因は汚い川に入って遊んで、まさしく釘か何かで足を傷つけたからです。水の中だから怪我したってすぐに気が付かなかったんですね。
だから、普通の怪我で、簡単になるものではないのに、と、子どもながらに思いました。それでも、大好きな作品でした。
Re: リアルタイムで読みました
-murasaki- さん いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。
河あきらさん お好きでしたか(*^_^*)
破傷風の恐ろしさをこれらの作品で心に植えつけられた子どもは多かったでしょうね。
私自身、さびたナイフを読んだ当時、共感できるとか出来ないとか、それすら分かっていませんでした。
今改めて読むと、本当に共感できませんよね(^_^;)
そうですよねー。昔の青少年はもっと大人っぽかったかも。
今が子どもっぽいと言うか・・。
たしかに映画的な作品でしたね。

リアルタイムで読みました
はじめまして。
「河あきら」でなんとなく検索しましたらここに来ました。

「さびたナイフ」も「震える舌」も当時リアルタイムで読んで観てました。
破傷風って怖いんだなと子供心に感じましたね。
「さびたナイフ」は確かに登場人物の誰にも共感が持てませんでした。
時代のせいもあると思いますが、皆、大人びてましたよね。
逆にそれが子供心に「憧れ」的に思えました。
漫画というよりは、映画的な作品で印象に残っています。
Re: 懐かしすぎて!
メグさんいらっしゃいませ~(*^_^*)
コメントありがとうございます♪
ね?懐かしいでしょ!(笑)
私も別マ時代のコミックスは全部そろえたいぐらいの気持ちです。
あとね「故郷のうたは聞こえない」を揃えたらコンプです。

これ、結構酷いお話ですよ(^_^;)
バッドエイジシリーズの中でもちょっと首を傾げたいですね。
あまりにもみんなに共感できなくてね。。。
でも、懐かしいから思わず読んでも嬉しくなってしまうんですね。

破傷風!これですよね~~~。
「いらかの波」は間違いなく昭和を代表する名作です!!!
私も大好き~~~~ヽ(^o^)丿
懐かしすぎて!
shortさん!!!
私もこの題名を見ただけで頭の中に
「破傷風」って字面が浮かびましたよ!!
ストーリーはほとんど忘れていたんですが
shortさんの説明でおぼろげながら思い出しました。
懐かしい~~~。

「いらかの波」私も大好きです。
赤い屋根の家を見ると思い出します。
あ〜、読み返したいな~。
Re: No title
ワルツさん、さっそくコメントありがとうございます!ヽ(^。^)ノ
懐かしいでしょ~。
私もほとんどおぼえて無かったですよ。
破傷風と、刺激に反応して痙攣を起こしている場面ぐらいでした(^^ゞ
どちらかと言うと、これより前の作品のほうが良いものがあったと思います。
4人ともどうしようもないんですもの・・・(笑)
それが青春!なのでしょうか?

でも、「いらかの波」は大大大好きですけどね♪
No title
もう、この絵を見ただけで、泣きそうになりました。
shortさん、ありがとう。
でも、ストーリーは全然思い出せないんですが・・・。
破傷風と言えば、これとおっしゃるshortさんに脱帽です。

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