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貴船の道/山岸凉子

2006年09月08日
貴船の道
緘黙の底 (しじまのそこ)
鬼子母神

以上三作品は、↓でご紹介した「黒鳥(ブラックスワン)」の同時収録作品です。

貴船の道
浮気相手がいる夫を残してしんでいく妻。
穏やかに死んで行きたいのに、夫が自分の死に「喜悦」の表情を浮かべたように見えて、心安らかではない死となってしまった。
そこに当然のように後添えとして入ったのが、不倫相手。
しかし、いきなり幼い二人の子どもの「母親」になり…。

結局、亡くなった元妻の面影におびえながら生活してて、夫はと言えば帰りは遅く家庭を顧みない。そこで初めて自分が、元妻の生前にどういう仕打ちをしてきたのか、この女に分かるのだけどその心理描写はお見事。
形は「略奪愛」ではないけど、妻が死んで「嬉々として」彼氏と結婚した形になるだろうと思うのだけど、それはそれほど幸せなことなのか。
苦しむ彼女に読者は、同情してしまうのでは?
そして、案外献身的な姿に好感も…。
不倫相手と言うと無条件に「悪」としてみてしまいがちだけど、すこし違うポイントから見れば、また別の感情が湧いてくる。
それにしても、いろんなところで妻の「亡霊」のようなものにおびえるんだけど、それは「幽霊の正体見たりなんとやら」の部分もあり…と、言い切れないところが山岸作品の怖いところですね!



緘黙の底
性的虐待の話。↓


これは槙村さとるさんのエッセイ「イマジン・ノート」に出てきたのでいつか読みたいと思っていたのだ。槙村さんはこの漫画を読んで、自分が父親にされてきたことを、封印した記憶から呼び起こし過去と対峙すると言うエピソードをこの「イマジン・ノート」で語っておられます。

主人公は小学校の養護教諭の吉岡彩子。
彼女に言い寄る男性教諭の関谷が受け持つ小学5年生のクラスには、問題児の香取恵がいます。保健室に「頭がいたい」と訪ねてくるようになった恵と関わりを持つうちに、万引きや夜間徘徊などの問題行動だけではない何かが、恵の身の上に降りかかっていると、直感で感じる彩子。
恵と関わっていくことが、同時進行してゆく吉岡との縁談(付き合ってもないのになぜか、親に紹介しようとしたり身上調査されてしまう彩子なのです。)と、保健の先生として子どもたちに性教育をすることになったプレッシャーとが、彩子に自分の過去を揺り起こさせます。
恵は父親に性的虐待を受けていたのだけど、それは回りの先生やおとなたちにとっては容易には信じられないこと。問題行動があるから、なおのこと恵を信じられないんです。

よほど特殊な人間だけがそう言ったことをする…と、普通は考えられています。
しかし、欲望の前ではほんの少しのアルコールでた易くその一線を超えるのです。
彼らは自分と同等、もしくは上の人間には欲望を感じません。
我が子であるというより前に゛あきらかな弱者"ゆえ安心して欲望するのです。
おのれの無力感をはらすためにさらに無力な子どもをねじ伏せるのです。
゛親の愛"という名目で最も手近で無防備な我が子を…犯す!
その時その子どもは魂を殺害されるのです。


信じようとしない関谷とは距離を置く彩子だが、自分の身の上に起きたことを関谷に打ち明け自らこの関係を清算しようとする。
彩子の過去とは、学者である父親に8歳になったとき犯されそうになり、それを5歳年上の姉に救われると言うもの。姉が彩子を救う手段は、父親を刺すことだった…。背中を工作用の小刀で何度も刺したのだった。
父親は死ななかったけれど姉妹の心の傷は深く、彩子は今も姉とは音信不通なのだ。関谷は無言で彩子のそばを離れる。
恵が児童福祉施設に入所し、彩子も産休期間が終わり学校を離れる。
そんな彩子を追いかけてきたのは関谷だった。
彩子と、恵のこのあとの幸せを願うばかりです。


鬼子母神
子どもを溺愛する母親と、その兄と母からちょっと外れてしまっている双子の妹が主人公。
母が菩薩と不動の顔を持ってたり(兄には見えない)母と兄の関係を「汗袋」なんかで表現してあって、抽象的な表現も面白い。
鬼子母は、500番目の子ども嬪伽羅(びんから)を食べたのではないか。そんな結論が異彩を放ってますね。
(私が聞いた話では、お釈迦様が戒めのために隠したと言うのだったけどね)

親が子どもたちの片方だけを異常に可愛がったり、または自慢したりして、残るほうはコンプレックスの塊になると言う話は山岸さんのほかの作品にも見られます。
「木花佐久夜毘売(このはなさくやひめ)」なんかもそうですよね。
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[や・ら・わ行のマンガ家]山岸凉子 | Comments(0) | Trackback(0)
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