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まだ8月の美術館/岩館真理子

2005年07月05日
まだ8月の美術館 (1)
岩館 真理子
4088650026

集英社クイーンズコミックス
収録作品
◆まだ八月の美術館…ヤングユー1995年9月
◆天気図…ヤングユー1991年10月
◆春の国…ヤングユー1992年6月号
◆ホロホロ鳥…ヤングユー1993年1月号
◆美代子さんの日記…ヤングユー1999年2月号
◆ピーチとシナモン…ヤングユー1998年11月号
◆さよならの約束…ヤングユー2001年2月号



◆まだ八月の美術館

転校するボーイフレンドと最後のデートを楽しむはずが、電車に乗り遅れてしまった二人。駅前の美術館に何気なく入ってみれば、そこには一面の冬景色があった。そして別れ難い二人がそこで取った行動は…。
ぷぷぷ、かわいいね。青春だね♪ってかんじで、微笑ましい。でも、とってもその気持ちはよく分かるのだよね。


◆天気図

波野くんは貝谷さんが好きみたいだ。そして、それを日記に書いてる!(笑)
そして、逆に貝谷さんは波野くんの事を…。しかも、これも日記に書いてる!
時は流れて、大人になって日記を読み返す。
ふたりの高校生のときの日記が交互にあらわれ、まず、波野クンが貝谷さんをどう思っているかが綴られて、つぎにはその貝谷さんが波野クンをどう思っているかが綴られます。
日記を読み返すという、恥ずかしくも「怖いもの見たさ」てきな気持ちがとってもコミカルに描かれてて楽しい作品。それにしても、貝谷さんに指摘されてるけど波野クンのほうが繊細な文章を書いてるのが面白い。しかも、読んでる本が「初恋」ツルゲーネフの…(笑)


春の国

宝石のような空の下で待っているのは、寮から町までの道を案内してくれる『道案内人』。少年はひとりの少女を道案内しようとするが、道から外れて迷ってしまう。やっと街が見えたとき少女は花を摘むと言って夜の山に戻っていった。それは本当にその夜案内するはずの「お客さん」じゃなかったのだ。では一体誰なのか…。不思議な体験のなかにも切なさのある散文的作品。



ホロホロ鳥

子どもの頃からクリスマスが大好き。クリスマスの「お招ばれ」のために子の一年を生きてきたとさえ思う。子どもの頃のステキなクリスマスの思い出を披露していたらいつの間にか自分の家でパーティーをやることになってしまった藤枝さんの戸惑いと滑稽さを描いています。
大人になって家族とクリスマスの食卓を囲む彼女の思い出話です。

◆美代子さんの日記

海外旅行から帰った冴子は、家の前で雪の中に埋もれている母親を発見。救急車を呼ぶが、母は意識不明になってしまった。半年前に夫を失った母親は自分で雪かきをしようとして屋根から落ちたらしいのだ。
そこに若い男、三国谷が登場。「美代子さんは大丈夫ですか?」と心配そうな顔。二人の関係は?

わがままで自分勝手な姉と、家族思いの妹とのバトルがここにも!
ともかく、親が倒れたんだから自分たちにできるだけの努力をしよう!と、至極まっとうなことを提案する10歳年下の妹に、姉の冴子は「マジになって熱くなって勝手にやってればー。あたしは知らないわ。点数稼ぎは任せた」みたいな、にくにくにくにく憎ったらしいことこの上もないようなことを言うのだ。23歳ですよ。妹は13歳ですよ。
しかし、母の入院の着替えを探している時に冴子が見つけた電子手帳には、思いがけないことが綴られているのです。それは、母が切々と綴った三国谷との甘いラブロマンス。三国谷は冴子よりも若いというのに…!!

読むほうもどうだか、と思うのですよ。わたしは自分が親に日記なんか見られてた少女時代を過ごしたため(はっきり言って娘にプライベートなんてなかったのだ。でも、わたしの子供時代、こう言う行動をしていた親は今よりも多かったのではと思うのだけどどうでしょう?)わたし自身は娘のノート一冊絶対に勝手に見ません。なので、この冴子のような気持ちは良く分からないなぁ…。ましてや親の日記なんかも読みたいと思わないけど、状況が違えば読みたくなるのかも…。

だけど、今では同じような年齢の、美代子さんの日記のほうにはに胸が詰まる。夢ですよね…。43歳の。
そして、日記を読んだことで冴子の母親への気持ちが変化してゆく。自分の所業を悔い改める…とまでは行かないだろうが、ちょっと転機になりそうなんですね。目覚めた母親と、そして妹と、もうちょっと仲良くやりなされ。


ピーチとシナモン

本当の父親が別にいると知り、家を出たカイトが迷い込んだ原っぱに、不思議な女の子がいて、導かれるままに不思議なレストランに着いた。そこには不思議な男の人がいて以前レストランに来た不思議な客のことを聞かせてくれた…。
宇宙飛行士だったその男は、宇宙から戻ってみたら愛する妻がおなかの子どもと一緒に別の男のところに行っていたのだと言う。男は宇宙で生まれてくる娘の名前を考えていたのに。
カイトの父親も宇宙飛行士だった。宇宙で死んでしまったのだ。
レストランのオーナーは「一番来て欲しいお客さんが着たから店をたたむ」と言うが…。そして、その不思議な女の子はエリカと名乗る。それはオーナーが語った宇宙飛行士が娘につけようとした名前だった。いつの間にかカイトは原っぱで一人たたずんでいたのだった…。



サヨナラの約束

あゆ子が10年ぶりにやってくる…。親同士の再婚で義理の姉妹となって、たった1年しか一緒に暮らしていないあゆ子に、10年ぶりに「お姉ちゃん」と電話で呼びかけられて戸惑うさやか。何のために今更会いに来るのだろう。

読んでるほうも、あゆ子の目的がわからないし、ひょっとしてほんとに慎悟(というのはさやかの当時の恋人だった。さやかは、あゆ子が慎悟を好きだったと思ってるのだけど…)に会いに来たのかななんて思うんですが、実は冒頭の電話の「お姉ちゃん」と言う呼びかけにこそ、真実が隠されているんです。
それがわかってもう一度読み返すと、あゆ子の気持ちが切なくて胸が痛くなります。むやみに警戒しているお姉さん。きっとあゆ子は寂しい気分だったでしょうね。

子どもの頃の思い出話が、ただ笑わせるためだけのエピソードじゃなく、あゆ子の気持ちに巧妙にリンクしてくるあたりにドキっとさせられます。


あゆ子はお姉さんが好きだったのだ。
同級生の清水君に打ち明けた好きな人「年上で、名前を聞いたらビックリする」というその相手はお姉ちゃんだったのだ。

清水君との今後に期待できるあたりにほっとする安心感を受ける切ない物語。
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