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蟲師/漆原 友紀

2006年02月28日
たとえて言うなら
モノトーン調の静謐な空間に身を置くような
そこだけ時間がゆったり流れるような
不思議で心やすまる雰囲気のマンガです。
画力が凄いので(マンガ家さんは誰でもうまいけど)
特にカラーの水彩画は独特の趣があり、魅入ってしまうのです。

こんな不思議な物語を次から次へよくまぁ
思いつく、と尊敬。

短編集「フィラメント」感想と、「蟲師」DVD、サントラ情報はこちら

蟲師 7 (7)
漆原 友紀
4063144046


+++7巻+++

「花惑い(はなまどい)」

ギンコは有名な桜の木を見ようと思い立ち、立ち寄ってみた。
だけど、桜は枯れてしまっていて花をつけた形跡はない。
その側には、医者が住み、遠方からも薬を求めて訪れる人がいた。
ギンコがそこで見た不思議な物言わぬ若い女、佐保。
医者と思っていた男は、実は庭師で何代もかけて桜を守ってきたのだった。
そして、男は不思議な恐ろしいやりかたで佐保を守っていたのである…。

蟲:木霊
木霊の宿った木は長寿になるが、動物に入り込むと五感を麻痺させる。

桜って、ほんと、ちょっとホラーですよね…。
綺麗で恐ろしい。


「鏡が淵」

森の奥の沼で、こない男を待ちつづけ、やがては体を壊してしまった娘、真澄。しかし、体調が悪いのは気持ちのせいだけではなく、蟲のせいでもあった。
その蟲は「水鏡」。池の水面に映った動物の姿を真似て陸に上がり、後を付いて歩くうちに本人と入れ替わり、「実体」を得ることで自由に動き回るようになる。
真澄は、「水鏡」につかれていたのだった。
しかし、恋しい男が来ない真澄は、自分の体を水鏡にくれてやってもいいとさえ、思うのだった…。

めずらしく、ギンコに惚れる女登場??
めちゃくちゃ渋くてカッコ良いギンコですが、あんまりモテてるところ見たことないよね。
行く先々で、モテまくってたら違う話になってしまいそうだモンね(笑)。

「雷の袂(いかずちのたもと)」

その家の大きな木に、何度も雷が落ちると言う。
それはなんらかの要因が働いている…蟲かも…と、ギンコはやってきた。
その家の息子レキのヘソに蟲が住み付いていて、いつもその木の下で雷に打たれると言う。
レキは母に愛されない子供だった…。

蟲:招雷子(しょうらいし)
上空に住む蟲だが、落雷の拍子に地上に落ちる。
自力で上空に戻れないため、木の窪みや人のヘソに入り込んで、養分となる雷が落ちるのを待つ。

愛せない母に、子供の「想い」が切なく胸を打つ。


「棘のみち(おどろのみち)」

とある山の中で蟲の異常が見つかった。
淡幽に頼まれてギンコがそこに行くと、一度生命を失った植物が、息を吹きかえしていた。
その場を取り仕切る蟲師である薬袋(みない)一族のクマドに出会ったギンコは、後をついて森の奥深くに入り込んでいくのだった…。
薬袋一族に課せられた、過酷な運命とは…。

ギンコ、最大のピンチ?

蟲:核喰蟲(さねくいむし)
棘の道に住み、魂を食う。

なにも感じないクマドが哀れでもあり、しかし、寄り添おうとする淡幽の優しさにほっとする一遍。



蟲師 (6)
漆原 友紀
4063143813


+++6巻+++

「天辺の糸(てんぺんのいと)」

普段は尾のついた風船のような形をしていて
光脈筋の遥か上空で、小さな蟲を食べて生きている。
でも、エサに不足すると、糸のような触手を垂らす。
蟲の名は「天辺草」。
この糸に触った少女、吹の物語。
吹にはこの蟲が「ほうき星」のように見えた。

もしも、人には見えない彗星が、自分だけに見えたら
それは彗星じゃなくて、天辺草かも…。

明るくなったら空の星は見えなくなっても
本当はそこに在る。それを忘れないで…。



「夜を撫でる手(よるをなでるて)」

腐酒(ふき)、光酒の腐れたもの。
本来なるはずの蟲になれずに赤い泥状になって
地下水から湧き出るが毒性が強く、口に入ると死ぬ。
稀に毒に耐える体質の人間がいるが
宿主となり不思議な力を得る。
その力を持つ兄、辰と弟卯介の物語。

山の中でひっそりと生きるきょうだいの姿が印象的。



「雪の下(ゆきのした)」

雪蟲には色んな種類があるらしい。
一見、雪の結晶と似た形だけど
ちょっと異形。
雪ならし』は動物の足跡に住み着く蟲で
コレが多いと足跡がたちまち消えてしまう。
狩りや人探しには、ちょっとお邪魔な存在。
雪団子蟲』は雪の上を転がって雪だまになり
時には大きくなって木にぶつかり雪崩を起こしたりもする。
常雪蟲』は群で行動して、動物の固体を特定して
まとわりつく。そして体温を奪う。
その動物などの周りにはいつも雪が降っているように
見える。
ギンコのハナシを聞いていた妙はトキのところへ
ギンコを連れて行く。
トキの周りにはいつも雪が深く積もり
本人も寒さを感じないのだ。
湖で妹を亡くしたそのときから…。

妹の死を受け入れていくトキ、トキを思う妙の気持ちが
心に沁みる一編です。


その他「囀る貝」「野末の宴」収録
4063143619蟲師 (5)
漆原 友紀
講談社 2004-10-22

by G-Tools


+++5巻+++

「沖つ宮」

海辺の里で、“生みなおし”のことを聞いて回るギンコ。
沖ににょっきりと出る岩の下には『竜宮』と呼ばれる海淵があり、そこで命を落としたものはまったく同じ姿で生まれてくるという。
澪の父は、澪の母親をその竜宮に沈め、そして次の望月に海に漂う光の粒を澪は飲み込んで、子をなした。生まれた子どもは自分の母親の“生みなおし”であると思うと、素直に子どもとして接することが出来ないのだった。

(しかし、これ、この粒さえあれば子ができるって言うのなら、男はいらないのでは…)

「眼福眼禍」

蟲のはなしを歌う琵琶法師、周(あまね)に出会ったギンコ。彼女の父親が蟲師であり、盲目の娘のために『眼福』という希少な蟲を探して与えたのだ。
眼福のおかげで周は目が見えるようになるが、普通の人間には見えないものも見通す『千里眼』になってしまう。それはけして幸福なことではなく…。
「闇の中で光を思い出しながら生きてゆくのも悪くはないと思うんだ」という周が、さばさばとした表情で去っていく姿にほっとしてしまう。

「山抱く衣」

古物商から、羽裏の見事な羽織を買うかというところのギンコ。
古物商が言うには羽裏の絵は高名な絵師の手によるもので、時折山から煙りが立ち昇るという。その絵を手がけた絵師というのは父の反対を押し切って絵師の修行に出た塊(かい)…。
数年後、絵師として出世した塊(かい)。人気絵師となり仕事に追われ、いつしかふるさとを顧みなくなっていた。ふと気付けばふるさとは惨憺たる有様。自分の姉や父も塊の便りを待つうちに…。
姉の娘のトヨを引き取ることになった塊だが、トヨの成長は遅い。
しかし、地滑りで死んだようになった山に生気が戻ってきた。それは『産土(うぶすな)』が、この山に戻ってきたためだった。
羽織を手に入れたギンコは絵師の古郷の山に入ってみる。が、いきなり土の中に引きずり込まれ、出てきたときは羽織の中の蟲は消えていた。羽織に巣食っていた蟲はやはり『産土』だったのだ…。

しかし、ギンコ…化野先生に、それは…詐欺?(笑)


「篝野行(かがりのこう)」

新種を求めてとある山里にやってきたギンコ。そこには野萩という蟲師がいた。山は蟲におかされており、焼くしか里の人々を救う方法はないと言う。とめようとするギンコの説得も虚しく、山は焼き払われた。が、焼き後から立ち上ったのは『陰火』であった。陰火のなかには『ヒダネ』という蟲が住んでいて、ヒトの熱を吸って生きる。その結果熱を奪われたヒトは死に至ることもあるのだが…。

「暁の蛇」

進行性の記憶喪失のような症状で、だんごや、くしゃみや、自分の持っている着物や、親戚、妹までも忘れてしまったカジの母。しかし、日常の動作や息子カジのことは忘れない。そして、遠くへ働きに出ている夫や、夫へ『蔭膳』をすることも。
母は、夜中も機を織る。寝ることはない。機を織りながら夫のことを忘れないように繰り返し思い出しているのだった。
そのようすを見守るギンコは、そこで『影魂』という記憶を喰う蟲を見た。原因がわかったが、蟲を追い出す手立てはないのだった。
そして、母とカジのふたりは、カジの父親を探す旅に出る。
そこで見つけた残酷な真実。それは、カジの父親が他の家庭を築いているということだった…。
帰りの道中で倒れこんでしまった母親からはその間に『影魂』が出て行くが、目覚めた母はわずかな記憶を残し、ほとんど一切を忘れていた。
それでも、やはり、今日も蔭膳をする。自分でも分からぬままに。


4063143325蟲師 (4)
漆原 友紀
講談社 2003-10-23

by G-Tools


+++4巻+++

「虚繭取り(うろまゆとり)」


蟲師たちの不思議な通信手段。それは、二匹の蛹が二本の糸でつくる一つの繭、その空になっている繭を使う。その二本の糸をばらして、ふたつの繭に作り直す過程で、『ウロさん』が出てくる。それを捕らえて、出来上がった繭の一つに封じ込める。すると、ウロさんはもう一つの片割れの繭との間でしか行き来をしない。片割れ(壱ノ巣)を『ウロ守』が持ち、もう片方(弐ノ巣)を蟲師が持つ。蟲師に宛てる手紙をウロ守が壱ノ巣に入れると、いつしかウロさんが弐ノ巣まで運んでくれると言うのだ。
ウロさんを扱うには決め事が一つ。ウロさんは密室を見つけては沸いて出る。だから部屋の戸は閉じてはならない。誤って閉じてしまったら開けてはならない。逃げ出すウロさんと共に『虚穴(うろあな)』に閉じ込められてしまうから。
このウロ守の後を継ぐためにやってきた綺(あや)と緒(いと)。緒は洗濯の大きな布に「閉じ込められ」そこに沸いて出たウロさんと一緒に、虚穴に閉じ込められてしまう。
5年後、ギンコに案内されて虚穴を見た綺。そこは果てしない虚無の世界だった。諦めようにも諦めきれず、ときおり、気配を感じては「緒ちゃん」と呼びかける綺。しかし、そこに緒の姿はないのだった。
そして数年後、とある養蚕の里に不思議な出来事が…。
「人の子繭より出り 齢十にして言葉を得ず 後 懐の文を頼りに古郷へ戻りし」


「一夜橋」

古びたつり橋を渡った谷の村。そこにギンコは3年前、その「かずら橋」から落ちて以来抜け殻のようになってしまったハナを訪ねた。3年前、ハナとゼンは、駆け落ちをするためにこの橋を渡ろうとした。ハナが人身御供同然の結婚を強いられていたから。しかし、駆け落ちしたところで幸福にはなれないと、ハナは躊躇する。そして橋から谷底に落ちてしまった。とうてい助からない高さであったにも関わらず、ハナは生還した。が、中身はもぬけの空だったのだ。村人たちはこれを「谷戻り」と呼んだ。谷戻りは、『一夜橋』のかかる夜に死んでしまうという言い伝えがある。
橋は『ニセカズラ』と言う蟲で、死体に寄生する。20年に一度その宿主から抜け出て谷に『一夜橋』をかけるのだ。そしてハナの体からニセカズラが抜け出して、ハナは今度こそ本当に死んでしまう。
ゼンは、一夜橋をわたって谷の向こうに行こうと誘うギンコに、「ハナを踏みつけて進めない」と後戻りして、谷へ落ちてしまうのだった。


「春と嘯く(はるとうそぶく)」

ギンコが雪の中で一晩の宿を頼んだ民家には、すずとミハルの姉弟が2人で住んでいた。ミハルは蟲が見える体質で、時折食べ物がなくなる頃ふいと行方をくらまして、数日後に見つかったときはこんこんと眠りつづけている。懐には冬にはあるはずのない山菜がたくさん。春になって目覚めたミハルはどこで山菜を摘んだかは言わず「家の外では開けるな」とのみ姉に言う。そしてギンコの目前で眠りについたミハルは、ギンコが一年後に訪れたときもまだ眠りつづけていた。謎を探りに雪山へ入るギンコは、春の景色の中に迷い込み意識を失う。すべては『空吹(うそぶき)』のせいで、これは特殊な匂いで動物や植物の活動を促し、おびき寄せその精気を奪い取る。奪い取られたほうは張るまで眠りつづけるのだ。

冬には人の心も弱まる、というギンコのナイーブな??一面が垣間見られてちょっと胸がキュン!ですね(笑)


「籠のなか」

竹やぶにとらわれて抜け出せなくなった男、キスケ。女房は蟲と人間の間に出来た非常に稀な『蟲蠱(おにこ)』である。竹やぶの寄生蟲『マガリダケ』の娘であるさよは、竹やぶから出られず、キスケにも外に出ないでこのまま藪にとどまることを求めている。しかし、いつも里を想っているキスケのために、さよは自分の身体の一部でもある、白いタケを切る。そのことでキスケは何十年ぶりかで里に出られたのだが、会いたかった妹は「もう二度と来るな」と言うのであった…。

結局はすずもタケを切ったことで死んでしまう。娘さえも。
何が本当に自分にとって大事だったのか改めて思い知るキスケだが、時既に遅かったのだ。

一種の「漂流」ものと言えましょう。うちに帰ってみればそこでは新しい暮らしがあり自分の入る余地はないという…。
しかし、すずと娘の墓から新しい命のたけのこが生えてくるのでほっとできるのです。


「草を踏む音」

蟲師に蟲に関わっていそうな噂や光脈筋の変動などの情報を売るのが生業の『ワタリ』。その中で暮らすイサザという少年と、滝壷で知り合った地主の息子沢(たく)の物語。



4063143120蟲師 (3)
漆原 友紀
講談社 2002-12-20

by G-Tools


+++3巻+++

「錆の鳴く聲(さびのなくこえ)」


しげが声を発すると、周囲の何もかもに錆が沸く。
ヒトでさえも。
それが分かるから、しげは声を出さないように暮らしてきた。
村人から冷たくあしらわれるしげに、一人だけ優しいテツ。
しげはいつか、自分の声でお礼を言いたいと思う。
しげの声は『野錆』の音と酷似していたのだ。その野錆を追い払う方法をギンコは思いつくが、錆の原因がしげにあると確信した村人たちは、しげを追いつめるのだった…。

ギンコが考えた方法は、町に集まった野錆を山に散らすというもの。そのためにはしげが、海を背にした峠で大声をだし、山にその声をこだまさせて、錆を散らすのだ。
しげは町を出てテツの海辺の村に行ったけれど、時々、潰れ果てたが奇妙に美しい唄声が山に響くのを町の人は聞くのだった。

「海境より(うみさかより)」

海岸で「嫁さん」のみちひを待つ男、シロウ。
駆け落ちの末、この漁村にやってきた二人は些細な口喧嘩の後、さらに小船でシロウの古郷の島に行く途中、シロウの目の前でみちひは船ごと、もやのなかへと消えてしまった。
そのとき、群なす海蛇を見たシロウ。
ギンコはその話を聞いて『蟲』だ、と言う。群れをなして外海を巡るモノと、ひっそりと山の中で生きるモノ、時が来ると海の中で合流し、千日後に同じ近海へ。
もやが出ているのは、その合流の証であり、ふたりはもやの中へ船を漕ぎ出す。そこには3年前もやのなかに消えていったみちひがいて、シロウを「3日は経った。遅い」と、なじるのだった。しかし、それは本当のみちひではなく…。

もやの中で夫を待ち続けたんだなぁ…と思うと…。
それでも、その後をこの男は幸せに生きるであろうと、想像すると気持ちが軽くなる。


「重い実」

凶作の年、その村だけは逆に豊作になる。
天災のたびに豊作になるが、そのたびに瑞歯の生えたその人物が一人死ぬという村。ギンコは「ナラズの実」を知っているかと、村の祭主に問う。
光酒(光脈)と同じ作用をする「ナラズの実」、それは生命を自在に操る。
ひとりの命と引き換えに大勢の命が助かるとしても、失う命があることを分かっていながら、そのちからを使うのは、ヒトを殺めるのと同じ、ギンコは言うが…。



「硯に棲む白(すずりにすむしろ)」

化野先生の蔵の中にある硯を使った子どもたちが病に倒れた。体温が下がりつづけて吐く息まで冷たくやがては氷の粒を吐き出す。
化野先生に助けを求められてギンコは硯の創作者に会いに行く。
硯の中にいる蟲は『雲喰み(くもはみ)』。
結局、硯から蟲を追い出すことにしたが、化野の未練は深いのだった。


「眇の魚(すがめのうお)」

ギンコがギンコになったわけ。
子どもの頃ギンコは別の名前、ヨキと言う名前で、母と一緒に行商をして方々を歩いていた。山崩れで母が死に、ヨキはとある池の淵に住むぬいに助けられる。
その池に棲む魚たちは、どれも片目なのだ。それは池に住む闇のような姿の『蟲』のせいだと、ぬいは言う。ぬいもまた、片目がなく髪は銀色、それは明け方の池が放つ銀色の光を繰り返し浴びたから。
闇は『トコヤミ』。光を放つのはトコヤミの中にいる『銀蠱(ギンコ)』と、ぬいは呼んでいるのだった。
かつてのぬいは蟲をひきつける体質のため、ひとつところにおられず旅暮らしであった。が、夫と子どもに会いに里に時折顔を出していた。
あるとき、夫と子どもが山の中にはいったきり行方不明となり、ぬいは山中を捜し歩く。そうして見つけたのがこの池であり、彼らが『トコヤミ』にとらわれたのだと知り、その行く末を知ってはいるがこの土地を離れられないのだと、ヨキに言うのだった。
しかし、ぬいもまた、トコヤミにとらわれつつある。池の魚同様、いつかは両目を失い、トコヤミに変えられてしまう。銀蠱に…。
おそろしい蟲をなぜ生かしておくのかと詰め寄るヨキにぬいは言う。「皆、ただそれぞれが あるようにあるだけ。逃れられるモノからは知恵あるわれわれが逃げればいい。蟲師はその道を探してきたのだ」と。
どうしようもないのだ、手遅れなのだ、おまえはここから出てお行き…というぬい。ヨキは一緒に行こうと取りすがるが、ぬいの残りの目は血を流し最期のときを迎える。追いすがるヨキとぬいの闇のなかでの別れ。
ヨキの暖かさが、あの仄暗い池の傍らでどんなにか懐かしかったと、ぬいは言う。
片目は銀蠱にくれてやれ、トコヤミから抜け出すために
だがもうひとつは固く閉じろ また陽の光を見るために…。
そして、ヨキは銀蠱の姿を闇の中で目にして、意識を失う。
闇の山中で道に迷うヨキ。いつしか、ぬいが教えてくれたとおりに、思いつく名前を口に出したのだろう。「ギンコ」と。
そして、ヨキはギンコとなり、ぬいの言ったように、以前の記憶を一切なくし、今も蟲をさがしてたびを続けているのである。



4063142841蟲師 (2) アフタヌーンKC (284)
漆原 友紀
講談社 2002-02

by G-Tools

+++2巻+++

やまねむる

山で
鉦(かね)の音を聞いたなら
そちらへ進めば獲物を獲見る
それは山の神の咆哮

クチナワ・・・ヌシ喰いの蟲。山のヌシ、沼のヌシ、それらを食ってそれに取って代わる蟲。
ヌシになれば蟲師とて流れずに一つところに留まれる。そして好きな女と共に生きる事も・・・そんな夢を抱いた蟲師のムジカ。
ヌシになってみればその生が辛く、自分もまた自らクチナワを呼ばねばならなかったのだろうか。

筆の海

痰幽は狩房家の4代目の「筆記者」として生まれた。足に墨色のあざを持つ。たまの祖先の蟲師が封じた禁種の蟲が、痰幽の命を喰ってしまわぬように眠らせるために、痰幽はたまが蟲師だったころに屠った蟲の話を紙に認めるのだ。激痛と闘いながら。
蟲を殺した話ばかりを聞いていた痰幽はギンコの蟲と共に生きる話に惹かれる。それが二人の馴れ初め。
いつものように、痰幽の所に来たギンコ。書庫で蟲の書物を読んでいると紙魚に書が食い破られていくのを目の当たりにする。
その紙魚とは・・・。
まさに「筆の海」の中の痰幽がりりしく気高い。
ギンコとの言葉少ないデート風景も見もの。

露を吸う群

目の前で見る見る老いて行き、不思議な香りを放つ。そしてその香りを吸う病人は病気が治る。そんな生き神様になってしまった幼馴染のあこやを救いたいナギに頼まれたギンコは、あこやの鼻腔に巣食う蟲を見つける。あこやの父親が自分の利欲の為にあこやをわざと「生き神」にしたのだ。しかし、ギンコに蟲を追い出されても、しばらく蟲の時間で生きたあこやは、もう二度と人間の時間で生きることが出来なかった。
時間の意味を考えさせられる一遍。


雨が来る虹が立つ

ギンコが旅の途中で出会った虹郎(こうろう)は背中に大きなかめをしょっていた。虹を・・・不思議な虹をそのかめに入れて持ち帰り、虹に魅入ったすえに病気になった父親に見せるのだと言う。
ギンコは虹郎の話から、その虹が「虹蛇(こうだ)」だと言う。そしてふたりでしばらく一緒に虹蛇を探す事になったのだった。
虹のことばかり言って村人たちに馬鹿にされていた父親。でも、虹郎は父親を信じたかった。信じるために虹を見たかったのだろう。


綿帽子

子どもの形をした蟲、綿吐が人間の元へ送り出す「人茸」。自分の子どもと思って育てたが、普通の子どもとは全然違う。それでも自分の子どもとして愛してしまう親の情が痛々しくも感動的。
その後、ギンコがこの綿吐きと会話している姿は見かけないけど、これはやはり化野先生のところにでもいるんだろうか。






4063142558蟲師 (1) アフタヌーンKC (255)
漆原 友紀
講談社 2000-11

by G-Tools


+++1巻+++

緑の座

左手で書いたものが紙から飛び出し命を持つ、五百蔵(いおろい)しんら少年の元を訪ねたギンコ。しんらのそばには見えないけどいつも廉子(れんず)おばあちゃんがいたのです。「蟲の宴」に呼ばれた廉子はその時に渡された杯に注がれた酒を飲み干せば、そのとき「蟲」になっていたはずなのだけど、宴が中断されたので蟲と人との半分ずつとして生きてきた。そして人としての廉子は死んだが、半分が蟲の廉子は今もしんらを見守り続けているのだ。そこでギンコは廉子を完全な蟲として蘇らせる方法をしんらに伝える。しんらの描く「杯」でもう一度「宴」をやりなおすのだ。廉子の記憶が流れこんできて涙に暮れるしんらが愛しい。白黒なのですが、もちろん、でも色が見えるような絵柄の美しさよ。廉子としんらはこの後を通しても好きなコンビキャラです。


柔らかい角

雪が降り積もる時期に音がまったくしなくなる。それは「呍」という蟲の仕業。そして「うん」の作った「無音」を食うのが「阿」と言う蟲。その阿のせいで始終音に悩まされている真火(まほ)は、同じ病気で母を亡くした幼い少年だった。その額には角が生えている。耳を両手で押さえたら角が生えてきたのだ。死ぬ前に母親が真火に伝えたかった言葉とは・・・。

枕小路

寝言と会話をしてはいけない、ということを耳にした事は?
その謎がここに。
枕は人生の3分の1の時間を預けているもの。魂がそこに宿ると昔の人は考えてきた。魂の蔵→たましいのくら→まくら。
予知夢をみるジン、最初はその予知夢でひとに幸福をもたらすが、それは蟲のなせる業だというギンコはジンに薬を処方する。でも、その薬で災害をを予知できず娘のまゆは死んだ。ジンは薬をやめる。予知夢は以前よりも多くなり当たるようになってゆく。そしてあるとき、妻の体にアオカビが生えて体が崩れて死んでしまう夢が現実となった。
ジンの寝言に答えたギンコ、その会話で夢と現実がつながり・・・。

血を噴出す枕はインパクト強し。
全体に暗く、救いがない物語ですね。
しかし、その無常観が心に響きます。


瞼の光

闇を通して繁殖する「マナコノヤミムシ」におかされたビキ。もともとその蟲に侵された本家の少女スイと仲良しだったので、蔵の闇の中で一緒にいる時間が長かった。その闇を共有したが為にビキまでも侵されたのだ。
ギンコが薬で治療してすぐにビキの目は治ったけれど、スイは自分のせいだと感じ入ってはいけない「河」に入ってしまう。そのため、スイの目は死んでしまうのだが、蟲をスイの目の奥から呼び出し退治してギンコは自分の片目(義眼)を与えるのだった。

ちなみに、これ受賞作だそうです。

旅をする沼

化野(あだしの)先生のところで獲物を披露するギンコ。
「しんらの杯」と引き換えに強力を請う。あるものを捕まえたい、と。
液状の蟲のその成れの果て「生き沼」を。
ギンコは途中、動く沼と一緒に移動する緑の髪の少女に出会う。
少女は記憶をたどれば、荒れ狂う川を鎮めるための人身御供として突き落とされたのだった。そこで、その緑の巨大なモノに出会い命を永らえた。目覚めた少女は緑の沼にいた。その沼は「あのとき」の「緑」のものだと確信し、その沼を唯一の居所としてあとをついているのだと言う。
ギンコの目の前で沼と共に地下に沈んだ少女をギンコは化野のつてで、海に出た所を漁師に捕獲させる。寒天状の少女はやがて目覚め沼が死んでいくのを目の当たりにしたことを話して涙するが、「数万年生きた最後の旅に同行したのだ。出会えてよかったな」と慰めるギンコである。
やがて少女いおの髪は黒に戻り、沼が死んだこの海で生きるのだと元気に漁をするのだった。






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